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「組織政策学習会 世界有数の安全な水まで売られる?」を開催しました

私たちの生活に欠かせない水が、民営化されたらどうなるのでしょうか? TPPのくらしへの影響として身近な水をテーマに取り上げました。ヨーロッパで起きた水道の再公営化をめぐるドキュメンタリー映画『最後の一滴まで』(2018年/ギリシャ)の上映と、この映画の日本語版の制作にかかわり、水道法に詳しい大田区議会議員の奈須りえ氏による解説を通じて、TPPと水道法について学びました。

映画『最後の一滴まで』から見る水道民営化・再公営化の実態

講師の奈須りえ氏より映画の人物紹介がありました

映画『最後の一滴まで』は、近年のヨーロッパにおける水道民営化・再公営化の実態を描いたドキュメンタリー作品です。パリ市の水道事業は、過去25年もの間、民間企業によって担われてきましたが、2010年に再公営化されました。民営化で技術面の管理権限を失い、料金は値上がりし、財政的な透明性も欠如してきたためです。ベルリン市は、水道民営化の際、企業と交わした契約内容は秘密とされていましたが、開示されたところ「リスクとコストはすべて住民に転嫁される」という内容でした。そして、再公営化の際には13億ユーロ(約1700億円)のコストがかかりました。

このように再公営化を選択する都市がある一方で、欧州債務危機で打撃を受けた国々のなかには、民営化を押し付けられている国があります。これまで水道メーターはなく、水道料金は税金で賄っていたアイルランドでは、メーター設置への抵抗運動の様子が映し出されていました。「このままだと水は商品になります。水は商品か、人権か?」との言葉に、日本ではなぜ水道民営化なのかという疑問を感じつつ、奈須氏の講演へと続きました。

海外の再公営化に学ぶ「なぜ今水道民営化!?」

「民営化と聞くと、いいことのように感じ

講演する奈須氏

」との説明に、会場の緊張感が高まりました。さらに奈須氏は「水道は住民が大きな運動を起こすことによって、民営化を止めたり、逆に民営化されてしまったものを再公営化することができる。ヨーロッパでは、そのような住民運動によって次々と再公営化してきている。そうすると、水道事業者にとっては次のマーケットとして日本にどうしても進出したい。日本ではそれを手助けするためにPFI法(※)をすでに改定して、民間事業者がリスクなく水道事業に投資できる環境まで整えてしまっている」と続けられました。ヨーロッパでは民営化をやめて、再公営化に向かっているのに、なぜ日本では水道民営化なのでしょうか?

真剣な面持ちで講演を聞く参加者の様子

水道事業の課題として、「設備が古くなってきており、設備更新にお金がかかること」「節水型の家電の普及などにより、水需要が減少していること」があります。また、これらによるコスト削減で人が減り、事業継承できないということもあります。「これらは民間企業が担ったら解決できる問題でしょうか? 本来は市民といっしょに考える問題では?」との奈須氏の呼びかけが印象的でした。

講演後、さまざまな質問がありましたが、「水道事業のあり方は検討していく余地があると感じた。今後どのように注目していけばいいのか?」との質問に、「地域住民の声というのがいちばん大きい。たとえば、横浜市の議員や職員にどうなっているのかと聞いたり、水道民営化を望まないという意見を声に出したりした方がいい」との言葉に大きくうなずく会場のみなさんでした。

 

(※)PFI( Private Finance Initiative)法:「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」のこと。2011年6月にPFI法が改定され、所有は公営のままでも運営権だけを取得できる「公共施設等運営権」という権利が新たに追加された。これにより自然災害によって設備が破損した場合も、その所有者である自治体が住民の税金で設備を直さなくてはならなくなり、民間事業者にとってリスクを減らすことができるようになっている。