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2017/10/23
講演会レポート

講演会レポート「エシカル・コンシューマーになる~でも、エシカルって?!~」

昨年ごろから、報道などで耳にすることが増えている「エシカル消費」。今回の学習会では、1985年以来パルシステムの産直交流やPB商品の開発に関わってきた志波早苗氏を講師に迎え、エシカル消費とは何か、エシカル消費の視点からパルシステム商品や事業活動をどのようにとらえることができるかなどについて解説していただきました。このレポートでは、エシカル消費とパルシステムの理念の接点を中心にお伝えします。

講演会概要

◆講演日時:2017年10月3日(火)10:00~11:55
◆講演場所:障害者スポーツ文化センター横浜ラポール 2階大会議室
◆講師:志波早苗氏
パルシステム連合会職員、(一社)くらしサポート・ウィズ事務局運営。初期の産直交流や数多くのパルシステム商品の開発などに組合員委員や理事として携わる。また、相談事業を運営するなかで貧困や孤立、ひきこもりなど、くらしにあるさまざまな問題と向き合っている。共著に『東日本大震災後の協同組合と公益の課題』(2015年・文眞堂刊)ほか。

講師の志波早苗氏
講師の志波早苗氏

「バランゴンバナナ」と産直米からエシカル消費を考えてみよう

「エシカル」とはethicalのこと。日本語では倫理的といった意味で訳されます。同じ倫理的、道徳的と訳される言葉に「モラリスティック」がありますが、モラリスティックが個人の心のうちにある良心をさして使われるのに対し、エシカルには企業や国家など、ある集団の規範といったニュアンスがあります。そのため「地球規模で起こっている貧困や飢餓、環境問題などに対して、私たちはどうあるべきか?」といった、個人の範囲を超えた価値判断について人類共通の理念としてとらえやすく、エシカルという「共通語」を使うことで、より多くの人に、パルシステム商品や事業もまた世界のさまざまな課題とつながっていることを伝えやすくなるということができます。

このエシカル消費という文脈のなかでパルシステムをどうとらえるかについては、事業活動そのものがエシカルであると考える人、いまひとつ理解があいまいだと感じている人など、かかわる多くの人にとってもさまざまかもしれません。そこで志波氏はエシカルについての理解をいま一度整理するために、まずは「エシカルの概念が生まれた背景」の一事例としてダイヤモンドを挙げました。

「婚約指輪に使われ私たちが幸せの象徴のように思っているダイヤモンドは主にアフリカの紛争地域から産出されます。高額取引されるダイヤモンドが紛争の重要な資金源です。劣悪な環境下での採掘、児童労働はもとより、紛争はダイヤモンドをめぐる支配権の争いへ変化し、武器の購入資金となり紛争を長引かせました。少年兵の問題をご存じですか? 武器が小型化したことから子どもを洗脳して兵士に仕立て最前線で戦わせます。セレブの人たちにそうした事実を知らせるNGOの活動がエシカル誕生の背景にあります。
社会のなかで弱い立場にいる子どもたちを働かせたり、公正ではない方法でその国の資産を奪うことで私たちの幸せや社会が成り立っている。そう指摘されれば、多くの人は無自覚にダイヤモンドを買うことに倫理的な憤りを感じずにはいられないでしょう。私たちは、素材であれでき上がった商品であれ、モノをもたずに生きていくことはできません。でも、何かを“買う”ときに、それがどのように自分のもとまでやってきたのかに思いを巡らせ、“選ぶ”ことはできるはずです。パルシステムでは“キッチンから世界が見える”ことを繰り返し伝えてきました。それはエシカル消費の視点そのものであるといえます」

パルシステム商品のなかで、エシカル消費の典型的な事例として志波氏が挙げたのが1989年に供給がスタートしたフィリピン・ネグロス島を産地とする「バランゴンバナナ」です。当時、世界的な砂糖価格の暴落によってネグロス島のプランテーションが崩壊し、島じゅうの農園労働者とその子どもたちが飢餓に陥りました。一方で、日本の消費者は農薬漬けではないバナナを望んでおり、それがバランゴンバナナが生まれる背景となったのです。

 

「バランゴンバナナは山に生えている野生のバナナで現地の人は食べないために、彼らの食を奪うことにはなりませんでした。そこで私たちが望む無農薬のバナナとして採取してもらい、ネグロス島の人々には現金収入のほかに自給自足できる道を拓き、将来にわたって自立できるしくみを考えました。バランゴンバナナはまさに、相互互恵的なエシカル消費の例といえます。
パルシステムには、組合員、生産者、職員がお互いの願いを理解するところから始まり、長い時間をかけて知恵を出し合い生み出した商品が数多くあります。たとえば産直産地の代表ともいえるJAささかみ(新潟県)とは産直米取引ができるまでに7年の歳月がかかりました。なんの面識もないところを会ってもらい、田んぼに足を運びながら少しずつ信頼関係を築き、ようやく組合員のためのお米を作ってもらうことができたのです。減反政策で米を作りたくても作れなくて苦しんでいた農民に対して、信頼関係にもとづいた産直という方法で組合員の消費の力を結集し新しいあり方を提案しました。そこにパルシステムの強さが現れていると思います」

「協同組合型」消費者運動の強みは、課題に対して答えを出す
主体となれること

それでは、一般の大手量販店などのなかでは、エシカル消費はどのような位置づけで考えることができるでしょうか。
量販店ではより多くの利益を上げることが求められるために、効率よく作られた商品をできるだけ多く販売することが必要です。利用者は安価で商品を購入できますが、商品にエシカルであることを求めるのはむずかしい場合があるかもしれません。
一方パルシステムでは、農薬などにできるだけ頼らない米や青果、食品添加物不使用の加工食品など効率的とはいえない商品づくりを行っています。そのぶん組合員に安全・安心な商品を提供することができますが、半面、安価に供給することはむずかしいという面ももっています。消費者が事業推進の一翼を担うことは、エシカル消費の理念を具体的なかたちに落としやすい一方で、その対価やコストは、利用者もまた応分な負担を求められるといえるでしょう。

それでは、エシカル消費への視点をもっているという意味では同じく消費者を主体とした他の消費者運動と、パルシステムとの違いは何でしょうか? 志波氏は「要求型と協同組合型」という切り口から、事業体としてのパルシステムなど生協の独自性を説明します。

「いまある課題に“No!”というのが要求型消費者運動です。要求型は解決手段を別のだれかやどこかが握っているために、解決の主体となることができません。
それに対して生協に代表される協同組合型は、現状の課題に対して『こうではいけない』とか『こうありたい』ことを、事業のしくみのなかで運動や商品という形で答えを出すことができます。さらに組合員が商品を“選ぶ”ことで、一般社会に対して大きな波及効果を与えることができます。

 

パルシステムの組合員は全部合わせても日本の人口の1.6%に過ぎません。しかし現在の日本の有機農地の17.9%はパルシステムが支えているという試算があります。この影響力は決して小さくありません。市場は『エコや安全・安心はもうかる』と判断すれば、そちらに経営の舵を切ります。量販店で国内生産者の安全・安心な野菜が多く並ぶことは、消費者にとってはもちろんのこと、生産者にとっても歓迎すべきことでしょう。パルシステムなど協同組合型の消費者運動は、結果的には社会全体を変え、エシカル消費を広げる力をもっているということができます」

常にエシカル消費の担い手であるために みずからの矛盾に
立ち向かう勇気を

志波氏がパルシステムのエシカル消費の取り組みの延長線上に語ったのが、2015年の国連サミットで掲げられた「持続可能な開発目標(SDGs)」(※)とのつながりです。

「ご存じのとおり、SDGsは『貧困をなくそう』『質の高い教育をみんなに』『平和と公正をすべての人に』など全17に分けた国際目標です。『環境への配慮』『社会への配慮』『人・地域への配慮』の3つの視点への問いかけが求められるエシカル消費とは、根っこのところでいっしょととらえることができるでしょう。
パルシステムは食の安全、平和、環境、国際交流などの『運動』を、商品、リサイクルのしくみ、自然・再生エネルギーの取り組みなど『事業』という形で実現しています。運動が事業につながり、事業が運動につながるというダイナミズムは、SDGsの担い手のとしてのパルシステムの大きな力であり、強みです。多くの人の想いがつながれば、できることは無限大だと私は考えています。
とはいえ、どんなことにも矛盾はつきものです。パルシステムの事業のなかにもさまざまな、なかなか解決のつかない課題があります。
たとえば商品の包材や配送のために、多くの容器包装プラスチックが使われています。リサイクルを呼びかけ、多くの組合員の協力は得られていますが、そもそも減らす(発生抑制)ことができないか、議論が続けられています。その成果のひとつとして、一部商品では包材を薄くするなど一歩ずつですが改善が行われています。
組織や事業には矛盾や課題はつきものです。その矛盾や課題を常に自覚し、けんけんがくがくの議論を恐れず、矛盾に立ち向かう勇気をもつこと、それを支える想い、ミッションを自らに問い続けることで、パルシステムはエシカル消費の担い手であり続けることができるのだと思います」

私たちの社会は、エシカルではないほうがはるかに効率よく利益を上げることができる消費のしくみのなかにあり、私たち自身、日々その恩恵や助けを借りて生活を成り立たせている事実もまた否めません。だからこそ、私たち一人ひとりがエシカル消費に意識的であることが大切です。フェアトレード商品など価格的には少し負担が大きい商品でも、それを「選ぶ」ことで、自分や家族の生活の仕方そのものを見直すきっかけにすることができます。エシカル消費は、「結局はめぐりめぐって自分や子どもたちの世代に還ってくる、未来への投資」(志波氏)なのです。

役職員による意見交換の様子

※SDGsについては以下も参考にしてください。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/doukou/page23_000779.html