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2017/09/27
講演会レポート

講演会レポート「日本の奨学金のあり方を考える」

いまや大学生の約半数が借りているという奨学金。その返還ができずに苦しむ人が増えている現状を受け、当組合では独自の奨学金制度を創設する準備をすすめています。今回の学習会では弁護士の岩重佳治氏をお招きし、奨学金問題の実状と背景に横たわる問題、私たちはどのような視点に立ち、解決に向けた取り組みをすすめればよいのかなどについて理解を深めました。このレポートでは実態と問題点を中心に、お話の一部を紹介します。

講演会概要

◆講演日時:2017年9月5日(火)10:00~12:00
◆講演場所:パルシステム神奈川ゆめコープ新横浜本部 2階A会議室
◆講師:岩重佳治氏
弁護士。多重債務問題、貧困問題への取り組みから奨学金問題に向き合うようになる。2013年、奨学金問題対策全国会議を設立。事務局長を務める。著書に『「奨学金」地獄』(小学館新書)ほか多数。

講師の岩重佳治氏
講師の岩重佳治氏

毎月1000円の延滞金を支払い
元金はまったく減らないという現実

奨学金の返還に苦しむ人が増えていると聞いたとき、多くの人はどのような想いをいだくでしょうか。世の中の論調のなかには、「返還できるように計画的に借りればよかったのに」「返せないのは自己責任」「どんな仕事をしてでも借りたものは返すべき」「奨学金をもらってまで大学に行く必要があるのか」。そんな声が聞こえることも少なくありません。
果たして、借りた奨学金を返せないのは「自己責任」なのでしょうか? 岩重氏が最初にお話で示したのは、返還苦にもがきながら、最後に岩重氏のもとにたどり着いた相談者のいくつかの事例でした。

「相談者のなかには、病気のために非正規で働きながら生活保護を受けている人もいます。ある相談者は、月に1000~2000円返しているけれど、延滞金に充てられて元金が減らないと言っていました。元金が減らないということは、その人は一生借金を背負い続けなければならないことを意味しています。
しかし、すべての日本人は憲法によって人間らしい最低限の生活が保障されています。そのため生活保護は理由のいかんにかかわらず受けることができ、課税もされません。ところが奨学金の返還は求められる。これは明らかに矛盾ではないでしょうか」

ここに出てくる延滞金とは、返還していない奨学金に対してペナルティとして年5%(2014年3月分までは年10%)の支払いが課されるものです。返還するお金は、まずは延滞金、次に有利子奨学金の場合はその利息、最後に元金、と充当順位が決められています。そのため病気や事故、失業など、一度なんらかの事情で返還が滞ってしまうと、この事例のように「返しても返しても元金は減らない」という状況に陥る可能性があるのです。

 

「大学卒業後に就職したけれど、うつ病になって退職。減額のための制度を利用しても50代半ばまでかかるため、とても結婚や出産は考えられません、という相談者もいます。
本来、奨学金は進学など学びの場への道を閉ざさないために、お金の面から学生や生徒を支援するもの。奨学金には、学ぶ意欲次第で人生への希望や選択の可能性を大きく広げてくれるという役割があるはずです。ところが進学する際のたった1回の選択が、仕事の選択の自由、結婚や出産などへの希望を閉ざし、人生の可能性をせばめてしまう。いまの奨学金は、本来の主旨からはかけ離れた姿をしているのです。
しかも、奨学金は他の借金とは違い、借り入れを希望する際の信用調査もありません。まだ社会に出る前の若者、返還能力があるかどうかなど判断のしようもない若者に貸すのです。だれにとっても将来は未知であるとするなら、返還困難に陥る可能性もまた、だれにとってもあるといえるでしょう」

利用増加の背景には高学費、低賃金・不安定雇用の増加など
さまざまな社会問題が・・・

多くのおとなたちには、奨学金は経済的な事情を抱えた学生の就学を助けてくれる、なくてはならない存在というイメージがあるでしょう。それが今はただの借金となり、延滞者の増加が社会問題とまでなっているのはなぜなのでしょうか。

現在、大学生が借りているのは一般的には「日本学生支援機構」(以下、機構)の奨学金です。入学前後に大学から配布される奨学金関連の資料でも、メインは機構であることが語られているため、学生や保護者は自然な流れで機構に利用申請をすることになります。自治体や各大学独自の奨学金も含め、現在大学生の約半数が何らかの奨学金を利用し、4割が機構の奨学金を借りているのはそのためです。

機構の貸与型奨学金には無利子貸与と有利子貸与があり、だれもが可能であれば無利子貸与を希望します。しかし利用申請後、有利子貸与の決定を受ける学生は多く、1999年では無利子が有利子を上回っていたものが、2012年には有利子が無利子の約3倍にものぼっています。

それでは、これだけ多くの奨学金を支える機構の財源はどこにあるのでしょうか。

「1998年には機構の財源の多くは、政府貸付金と返還金でまかなわれていました。2014年になると、国のお金と返還金は3割余。その他6割以上の財源は、民間からの借入金や機関投資家への債権売りでまかなわれています。しかも機構の奨学金の回収率は95%。これはメガバンク並みの回収率であり、機構はじつに優秀な投資先というわけです。
回収が強化されてきたために、現在は延滞3カ月で延滞情報が信用情報機関のブラックリストに登録され、4カ月で回収会社による取り立てが、9カ月になると裁判所の支払い督促が始まります。一般の人にとって裁判所からの通知がいかにショックと重圧が大きいかは、容易に想像がつくところでしょう。機構は金融業者として、奨学金という名のローンの貸し付けと回収を行っているのです」

 

そもそもこのように奨学金の利用者と、同時に延滞者が増えているはなぜなのでしょうか。岩重氏は、背景には構造的な問題があると指摘します。

「諸悪の根源は学費の異常な高さと、それに対して公的支援が極めて手薄なことです。日本の私立大学では、初年度納付金は130万円を、国立大学でも80万円を超えています。フィンランドやデンマークの国立大学はゼロ。OECD(経済開発協力機構)の加盟先進国35カ国中、日本の高等教育への公的支出の対GDP比は、なんと最下位です。
また、景気が上向かないために両親の年収が下がり続け、親からの生活費の支援もまた減っています。それを補うためには、学生はアルバイトはもちろんのこと、奨学金を利用せざるを得ません。国連の国際人権規約では“高等教育は無償の制度を可能な限り迅速かつ効果的に達成する”ことが義務であるとされ、日本もこの規約の締結国のひとつです。しかしこの国際条約が守られていないために、日本ではその負担を学生と保護者が負っているわけです」

返還がスタートする卒業後の就業環境も、非正規雇用など不安定雇用が増加するなど、延滞者を生み出す一因となっています。

「貸与奨学金は、正規雇用による安定した収入を前提にしてこそ成り立つ制度です。しかし今はその前提そのものが危うく、2012年には非正規雇用者が3割を超えています。結果的に賃金も下がることになり、現在、延滞者の8割以上は年収300万円以下。奨学金問題は、自分ひとりのがんばりではとうてい解決できない、日本の社会が構造的にかかえている問題のしわ寄せとして表れているのです」

具体的な提言を共有し
これからの取り組みに向けて一歩を踏み出そう

岩重氏は2013年に「奨学金問題対策全国会議」を設立し、数多くの延滞者の救済にかかわってきました。現場での経験から、岩重氏は制度や政策について次のような視点の重要性を語っています。

「高騰した学費は、教育の機会不平等を生み出します。国際条約で義務づけられているように、高等教育の無償化に向けた取り組みは必須です。同時に、奨学金は貸与ではなく、返還が不要な給付型を原則にすることを求めていかなければなりません。
また貸与も有利子ではなく無利子とし、財源は公共であること。財源を一般市場に求める限り、回収は強化されるでしょう。民間の投資家などの利益を確保するために、返還に苦しむ人が存在するのはあってはならないことです」

奨学金の返還は多くの場合、借りるときに振り込まれる口座をそのまま引き落とし口座として用いるため、定期的な収入がある限り、毎月の返還は通信費や水道光熱費など他の固定費の支払いと同じように見えています。しかし一度返還が滞ると、見えなかった制度は姿を現し、借りている人を急速に追い詰めていきます。実際に返還苦に陥るような状況になったとき、本人や家族はどうしたらよいのでしょうか。

「機構には、返還期限を猶予する救済制度があります。延滞が発生すると使いにくくなるので、困ったときは、まずは一刻も早く機構に連絡することが大切です。
しかし奨学金の制度には様々に入り組んだ条件があり、また運用するなかで制度が変えられてしまう場合もあります。もともとそのような知識も情報もない借り手ひとりの力では、とうてい手に負えるものではありません。がんじがらめになったときは、自己破産するのもひとつの方法です。こんなことを言うと驚く人も多いのですが、自己破産しても普通の生活はおくれますし、人間としての尊厳を打ち砕くような制度でもありません。救済制度について知るためにも、苦しいときには国民生活センターや法テラス、私たち専門家の相談窓口をぜひ利用してほしいですね。
私のもとを訪れるのは、他人には苦しいと言えず、親や親族など保証人への申し訳なさを抱えながら、なんとか少しでも返そうと最後までがんばり続けてきた人たちです。でも、人間はだれしもひとりでは弱いものです。がんばりすぎることは、がんばれなかった人の責任や人格を追及し、ひいては格差をさらに広げることになりかねません。返還に苦しむ人も支える側もまた、自分自身がじつは弱い存在であることを認めることが、だれにとってもくらしやすい社会とは何かを考えるきっかけになる、そんなふうに考えてみてはどうでしょうか」

 

当組合では2015年度から奨学金制度の改善を求める署名活動に参加し、大学生の奨学金制度の理解を深めながら、高校生の就学支援の制度や実態についても学習してきました。そして地域の様々な支援団体と連携しヒアリングを実施するなかでわかってきたのが、高校生の場合、家庭の貧困と深くかかわりがあり、まずは高校進学のための学習支援など、大学生とは異なる支援が必要だということです。そこで当組合では「ひとり親世帯の高校生を対象とした」奨学金制度を創設し、現在2018年4月の給付開始をめざし取り組みをすすめています。

役職員による意見交換の様子

貧困や格差については、自己責任といった言葉が投げかけられることがありますが、その背景への問題意識や洞察が必要ではないでしょうか。協同組合の理念を共有する私たちがこの問題に対してできることは何か、そのひとつのかたちとしての奨学金制度の創設を通じ、私たち自身がさらに学びを深めていきたいと思います。