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2017/08/22
講演会レポート

講演会レポート「『共謀罪』のポイントと私たちのくらしに与える影響」

本年7月11日、共謀罪が施行されました。今回の学習会では、共謀罪について国会や政府の取材を重ねてきた金子元希氏(朝日新聞社会部記者)を迎え、そもそも共謀罪とは何か、また私たちは今後どのように向き合っていけばよいのかなどについて、考える機会をもちました。このレポートでは、私たち生協活動に携わる者にとってかかわりのある部分を中心にお伝えします。

講演会概要

◆講演日時:2017年8月3日(木)10:00~12:00
◆講演場所:神奈川県トラック総合会館 6階第1、第2研修室
◆講師:金子元希氏
朝日新聞大阪本社社会部記者。2017年4月末まで東京本社勤務。法務省担当として共謀罪の取材に携わる。

講師の金子元希氏
講師の金子元希氏

277の犯罪に対して帽子のようにかぶせるのが共謀罪

 本年1月からの通常国会に法案が提出され、6月の参院本会議での可決を経て、7月11日に施行された共謀罪(※1)。戦前、戦中の治安維持法の復活ではないかといった懸念が広がるなか、一方ではかつてのオウム真理教による地下鉄サリン事件や、世界各地で近年はテロ事件が相次いでいることから、その是非についてどのように判断したらよいのか混乱した方や不安を抱いた方も多いのではないでしょうか。そもそも共謀罪とはどのような法律であり、どのような問題点をはらんでいるのでしょうか。金子氏の講演はまず、共謀罪の成り立ちについてのお話から始まりました。

「昨今、国際的なテロ事件が頻発し日本人が巻き込まれる例も増えています。2020年に東京五輪を控え、日本でも国内外の多くの人々の移動が予想されるなか、テロのリスクは高まっているという見方もあるでしょう。政府が今回、共謀罪法案を提出した根拠は、こうしたテロ対策でした。日本に共謀罪がなければ五輪ホスト国の資格がない、というのが政府の主張です。
 それでは何をすると罪に問われるのか? との質問に対して、政府は “犯罪を行うことをふたり以上で計画すること” “指揮命令に基づき役割分担を決めて行われること” “計画したうちのだれかが実行に向けた準備行為をすること” の3つの構成要件を挙げました。
 ここで留意したいのは、共謀罪は、たとえば殺人罪のようにある特定の行為を対象にして取り締まる法律ではなく、殺人をしようと “計画した段階” で取り締まりができる法律だということです。その対象となる犯罪は277にのぼり、これらに対していわば帽子のようにかぶせ、実際に犯罪を行った時点ではなく、準備行為の時点で取り締まることを可能にしたのが共謀罪というわけです」

 277の犯罪のなかには窃盗や放火、組織的な殺人、サリン等の発散、ハイジャックなど市民感覚すれば明らかな犯罪行為があり、これらを準備の段階で取り締まることができるのであれば、必要な法律のようにも感じられます。しかし、なかには切手類の偽造、特許権の侵害、著作権の侵害など、一見したところでは対象とされた理由が判然としない犯罪も含まれています。

「切手の偽造は、それによってテロ実行の資金源になりうる、ということが対象とされた理由です。しかしそれは、現実的には苦しい理由づけといえるのではないでしょうか。その一方で、選挙違反を取り締まる公職選挙法は除外されています。そのようなことが明らかになるにつれ、対象とされた犯罪は、範囲が必要以上に大きく広げられているのではないか。また、政治家が恣意的に取捨した結果ではないか。共謀罪の成り立ちについてそんな疑問の声が挙がっているのです」

 

 ※1:「組織的犯罪処罰法」(おもに暴力団などの犯罪に適用されている)を改正して創設。「共謀罪」「テロ等準備罪」との呼び方は正式罪名ではなく呼称。朝日新聞社では「共謀罪」を使用している。

市民団体の活動にも監視の目? そもそも一般人とは何だろう?

 私たちは今の一般的なくらしのなかでは罪に問われることなどない、むしろ法に守られる側だと信じて安心してくらしています。そんな私たちにとって、共謀罪はどんなかかわりがあるのでしょうか。成立までの間は世論が賛成と反対で割れました。金子氏は論点のひとつに「一般の市民は対象になるのか?」を挙げます。

 「政府は “対象は組織的犯罪集団に限定しており一般市民は対象にならない” と主張しています。しかし国会答弁で耳にした方もいると思いますが、“もともと正当な活動をしていた団体でも、性質が犯罪を目的とする集団に変わった場合は対象となる” “環境保護や人権保護を隠れみのにした団体も組織的犯罪集団に当たることがある” とも説明しています。つまりは “犯罪の疑いが生じれば一般人ではない” というわけです。
 そういった主張を耳にすれば、“それではすべての人が対象になる可能性が否定できないのではないか” “そもそも、誰が犯罪集団だと決めるのか” といった疑問がわいてきても不思議はありません」

 多くの人がまず疑問や不安を感じるのはこの部分でしょう。たとえば環境問題についてパルシステムが集会を開いたことが、何らかの犯罪を計画していると疑われる。そんな荒唐無稽な想定が、想定ではなくなるかもしれない社会。あらゆる組織、団体に疑いの目が向けられる可能性があるとすれば、共謀罪は私たち一人ひとりにとって無関係とはいえなくなるでしょう。

 これにつながる問題点として金子氏が挙げたのが、「監視社会につながるのではないか? 内心の自由を侵害することになるのではないか?」といった論点です。

 

「政府は “捜査機関が常時国民の動静を監視するといったことはない” と答えています。しかし先の政府の主張に基づけば、“普通の団体が組織的犯罪集団に変わっていないか、犯罪計画に基づいて準備行為が行われていないか” は、捜査機関の視線が注がれてこそ判断されるわけです。また疑いがあるとみなされば、任意捜査というかたちで取り調べが始まります。対象とされた団体には、実際に犯罪を起こすよりもだいぶ前の段階から、疑いの目が向けられ続けることになるのです。
 また共謀罪は準備の段階で逮捕が可能になるわけですが、はたして “準備” とは何をさすのかは、グレーゾーンでもあります。“内心の自由” は憲法によって保障されている国民の大切な権利ですが、もしも心のなかで考えたことまで踏み込んで捜査される恐れが増えるとすれば、それは非常に恐ろしいことではないでしょうか」

 もうひとつの論点は「はたしてテロ対策として有効なのか?」ということです。

「もともと政府が共謀罪の成立を急いだのは、世界187の国と地域がすでに締結している国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を、日本でも締結するためでした。たとえば国をまたいで移動した犯罪人を引き渡したり共同で捜査したりするためには、両国間に同等の法律がなければなりません。日本には準備段階の犯罪人を逮捕する法律がないために、テロリスト集団を取り締まることができない、最近の国際情勢を考えれば早急に法律を整備してTOC条約に加盟すべきだ、というのが政府の主張です。
 これは一見とても説得力があるように感じられるかもしれません。しかし、先にも述べたように、共謀罪の構成要件は “ふたり以上で計画すること” です。世界中で対応に苦慮している単独犯によるテロは、共謀罪では防ぐことはできません。もし本当にテロを未然に防止しようとするのであればテロに特化した法律や条約で対応すべきではないか、という声が出ているのはそのためです」

使い勝手のよい法律に改正される危険も
将来にわたって関心をもとう

 共謀罪は7月11日に施行されましたが、私たちの社会はひとまずは平穏な状態だと感じられていることでしょう。それではこの法律は議論が完了した、あるいは、すでに成立してしまったからもうなくすことはできない過去のものなのでしょうか。

「共謀罪に対する世論は、国会に法案が提出されたころは賛成が反対を上回っていました。その後、成立直前には反対が賛成をやや上回りました。賛成意見には “東京五輪を控えもっと治安強化をするべきだ” “そのためには多少窮屈な生活になったとしても安全なくらしにつながったほうがよい” という意見があるでしょう。反対意見には “世界有数の治安のよさを誇る日本で、新たな制約を設けてまで治安強化をはかる必要があるのか” “TOC条約を結んでいる欧米各国でテロは起きており、条約が万能ではない” といった意見があるとみられます。どちらにもうなずける側面があるから、賛成か反対か一概には言えないと考える人もいるかもしれません。
 しかし、一度できた法律はなくすことは非常にむずかしく、また、10年20年と年月が経ち私たちの関心が薄れたころに、その法律が成立した段階で設けられた運用の制限を緩めてしまう事例(※2)もあります。共謀罪が、一般の国民が委縮した社会、お互いを監視し合う社会への問題点をはらんでいるのであれば、厳格な運用がなされているか、政府や警察が使い勝手のよいように改正しようとしていないかなどを、将来にわたってチェックし続けることがとても大切です」

 現在、街には多数の防犯カメラが設置され、私たちの安全なくらしを守っているようです。また、多様な通信ネットワークが張り巡らされることによって、生活の安全も利便性も、情報を収集することも発信することも、かつてなく向上した時代に私たちは生きています。しかしそれは同時に、おとなから子どもまで一人ひとりの人間の情報の流出や監視もまた、きわめて容易な社会であることを示しているともいえるでしょう。「今の私たちの社会は、すでに共謀罪が適用されうる社会」(金子氏)だからこそ、一人ひとりが自分の問題としてとらえ、今後も関心を持ち続ける姿勢が求められています。

※2:1999年に成立した通信傍受法は、捜査現場からの運用のしにくさの声を背景に、2016年に対象犯罪が4種から13種に拡大。2019年には通信事業者など第三者の立ち会いが不要となる改正法が全面施行される。