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2017/07/31
講演会レポート

講演会レポート「海の汚染から水環境を考える~マイクロプラスチック 海に漂うゴミ~」

レジ袋やペットボトルなどのプラスチック製品が劣化し、細かい破片(マイクロプラスチック)となって海洋汚染を引き起こしている。そんな報道を目にすることが増えています。今回の学習会では、フィールドワークや実験を通して化学物質による水環境の汚染について研究されている高田秀重先生を迎え、汚染の現状とそれに対して社会や私たちができることとは何かについて考えました。

講演会概要

◆講演日時:2017年7月3日(月)10:00~12:00
◆講演場所:横浜市スポーツ医科学センター2階大会議室(日産スタジアム内)
◆講師:高田秀重氏
東京農工大学農学部環境資源科学科教授。
有害化学物質やマイクロプラスチックによる水環境の汚染を実証的に研究。
環境化学会功績賞、水環境学会学術賞等受賞。

講師の高田秀重氏
講師の高田秀重氏

合成洗剤による汚染はいまも現在進行形

 合成洗剤による河川の汚染や手荒れなど人体への影響が大きな社会問題となった1970年代。パルシステムでは米ぬかを原料とする『粉石けん水ばしょう』を独自開発し、以来、一貫して石けんの利用を呼びかけてきました。2017年5月にも当組合の組合員の協力によって『やっぱり石けん!洗濯用粉石けん』をリニューアル。とかく使いにくいと言われる石けんを、より多くの方に使っていただくための努力を重ねています。

 現在、私たちの身の回りの川が泡だらけになるような状況は見られなくなり、一見したところ合成洗剤の影響は消えてしまったかのようです。しかしそれはあくまで泡のような目に見える形では消えただけのこと。高田先生は、合成洗剤に含まれる化学物質の一部は残留性が非常に高く、いったんは下水処理場を経ても、除去しきれずに川から東京湾へ、さらに相模湾まで広範囲に流出し海中や海底に沈殿し続けていると語ります。

「合成洗剤の界面活性剤は多くをLAS(※)が占めています。このLASは毒性が非常に強く、2013年に国が設けた水質目標で除去すべき指標物質となっています。いわば国がその有害性を認めたわけですが、この水質目標には、いくつか不充分な点があります。
 魚が死ぬような状態が見られれば、その川の危険性はだれの目にも明らかです。しかし問題は、魚は目標値の10分の1程度のレベルでも忌避行動を起こすなど、敏感にLASのような異物を感知すること。国が定める目標値が達成されていても、その川の水に危険はないとはいえないのです」

 “忌避行動”とは、たとえばサケが生まれた川の水に異物(例えばLASのような人工化学物質)を感じ遡上しない、といった、死に至りはしなくても、生物として異常な行動をとることを指します。

 もうひとつの問題として高田先生が挙げたのが“雨天時越流”です。もともと、下水道には汚水を下水処理場に運ぶ役割と、雨水の路となって都市を洪水から守るというふたつの役割があります。

「都市部の多くの下水道は、降雨量が増えると雨と下水が同じ下水管を流れる構造になっています。そのため年間では100日以上、LASなどの有害物質を含む下水が、未処理のまま川から海へと流れていくと推定されています」

 たとえ平時に水質目標をクリアしていても、越流したときには実際の値は上がり、毒性が高まっている可能性があるというわけです。

 LAS以外にも合成洗剤の有害な物質として高田先生が挙げたのが、蛍光増白剤です。蛍光増白剤は現在はおもに粉の合成洗剤に使われ、洗濯物を白く仕上げる汚れ落ちのよさをうたった商品として店頭に並んでいます。

「蛍光増白剤は紫外線が当たるとほの青く発光する物質です。洗濯物にこの物質を着け白いと錯覚させるのが蛍光増白剤です。この蛍光増白剤の問題点は、LASが現在の日本の下水処理技術によって約99%除去されるのに対し、5割しか除去できないこと。実際に相模湾の海底から採取した堆積物を調べると、水深1500mの深海からも蛍光増白剤が検出されています。1000mを超えるような深海には、光が届かないので微生物分解も行われません。一度沈殿してしまえば、半永久的にそこにあり続けるのです」

紫外線を当てると青白く光る蛍光増白剤

※LAS:直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩。洗浄力が高く安価なため、合成洗剤の界面活性剤として使われることが多い。

マイクロプラスチックが引き起こす海と生物への汚染

 それでは合成洗剤を使わなくなれば、水環境をこれ以上汚染することはないのでしょうか? 高田先生が次に提起されたのが、汚染の新たな脅威として世界的に警鐘が鳴らされている、マイクロプラスチック(5mm以下になったプラスチック製品の破片)による海洋汚染の問題です。

「現在世界では年間約3億トンのプラスチックが生産されています。これは石油産出量の8%にあたり、さらにその半分はペットボトルやレジ袋、容器包装になっています。ペットボトルは85%がリサイクルされている非常に再生率の高い製品ですが、残り15%の一部は再生もされず、ゴミとして環境に出ていきます。ゴミは陸地から河川、海洋へと流出し、やがては紫外線や風、波の力で劣化してマイクロプラスチックになり漂うことになります。とくにレジ袋は薄く弱いぶん劣化しやすく、マイクロプラスチック化しやすいといえるでしょう」

 マイクロプラスチックが引き起こす汚染には、大きく分けてふたつの危険性があると高田先生は指摘します。まず容易に想像がつくのが、魚介や水鳥などの動物がエサといっしょに食べてしまうことです。高田先生の研究室の学生さんが東京湾のカタクチイワシの胃と腸を調べたところ、釣った64匹のうち49匹(約8割)から、計150個のマイクロプラスチックが見つかったとのこと。中には1匹から10個取り出した例もあったそうです。

もうひとつの問題は、マイクロプラスチック自体が、有害な化学物質を吸着しやすい性質をもっていることです。

採取されたマイクロプラスチック

「PCBやDDTなどの人体への重大な影響や発がん性が指摘されている化学物質は“ストックホルム条約”で規制されています(日本は2002年に受諾)。しかしこれらの化学物質は残留性が極めて高く、製造や販売、使用が禁じられた現在でも、低濃度ながら水の中に留まっているのです。さらにこれらは油(脂)に溶けやすい性質をもっています。つまり、魚介や人が取り込むと脂肪に蓄積し、そこから全身への有害性を発揮する危険があるわけです」

 生物が取り込んだマイクロプラスチック自体は、時間が経てば排せつされていくといいます。しかしその後も、マイクロプラスチックが吸着した有害物質は体内に残ります。食物連鎖によって小さな生物から大きな生物へと取り込まれ、濃縮した有害物質が、やがては人間にまで運ばれることも考えられるのです。

持続可能な社会に向けて 社会のしくみそのものを見直そう

 マイクロプラスチック汚染が生物にどのような影響を与えるのか、現在のところ、科学的に解明されているわけではありません。一方で、何も手を打たずにこのまま海に流出し続ければ、その量は20年後には10倍に増加すると試算されています。実際、皇居の桜田濠の水底を掘削し採取した堆積物からは、2000年代には1950年代の約7倍のマイクロプラスチックが検出されたのだそうです。

「いまはリスクが不確かなマイクロプラスチックですが、時間の経過とともに汚染が深刻化することは明らかです。そして一度流出し海流に乗って地球規模で広がってしまえば、除去することはできません。生物への影響が解明されてからでは遅いのです。そのため国際的には“予防原則の立場”から対策が進められています。2017年6月には国連で“海洋会議”が開かれ、各国はレジ袋や使い捨てプラスチック禁止など法規制を強めています」

 さらに気をつけなければならないのは、マイクロプラスチック汚染は、レジ袋や使い捨てプラスチックによってのみ引き起こされるのではないということです。たとえばフリースなどの衣料品やアクリルスポンジ、化学雑巾などに使われる化学繊維、洗顔料に含まれるマイクロビーズ(スクラブ)、汚れを吸着しながらそれ自体が削れて小さくなるメラミンフォームスポンジなど、その供給源は非常に多岐にわたり、私たちのくらしのあらゆる場面で利用されているのが現実です。

「これまで環境汚染低減のために3R(Reduce、Reuse、Recycle)の重要性が繰り返し訴えられてきました。しかし最も優先順位が高いのは、Reuse(再利用)やRecycle(資源ゴミを原料として新たな製品に再生させること) ではなく、Reduce(削減)であることが国際的にも強調されています。リサイクルにもエネルギーとコストがかかるからです。ペットボトルのリサイクルにもコストがかかります。リサイクルされるからどんどん使うのではなく、ガラス瓶を使う、マイボトルを使うなどにより、ペットボトルの削減が必要です。また、災害が起これば、リサイクル用に輸送・保管中のペットボトルも川や海に流れ出てしまいます。東日本大震災の漂流がれきの中にはペットボトルも混ざっていました。各地で起こる水害のニュースでも濁流の中にペットボトルが見えます。全部、海に流れていきます。削減を実現するためには、生産や流通まで含めた社会の枠組みそのものを変えていくことが重要です。リサイクルを過信してはいけません。まずは減らす、生協であれば取り扱いを止めることです」

 現在日本では、1人あたり年間300枚のレジ袋が使われていると推計されるのに対し、EUでは2025年までにレジ袋の消費を1人1年40枚まで削減することを目標にしているのだそうです。日本の数字の大きさは、消費者だけではなく、行政や産業界も含めて社会全体でこの問題に取り組むことの重要性を示しているといえるでしょう。当組合でも私たち一人ひとりが日々のくらしのなかでできることへの呼びかけはもとより、より大きな視点から、持続可能な社会へ変革を促していく事業のあり方に向けて、取り組みを続けていきます。

ペットボトル商品の取り扱いにつきまして

パルシステムグループでは、2016年1月から、それまで取り扱ってこなかったペットボトル商品『富士の天然水(PET)』の販売を開始しました。販売開始のきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故による水不足でした。震災後に非常時の備えとして持ち運びや保管がしやすいペットボトルの利用を検討してほしいという声が多く寄せられたことが大きな要因となりました。

高田先生のご指摘にもありますように、マイクロプラスチィック汚染や、水害時にはペットボトル容器が海洋に流出してしまうなどの問題も残されています。パルシステムグループでは、容器包装の削減(リデュース)、リユースびん商品を中心とするリユースを推進し、このような課題に取り組んでまいります。加えて使用済みペットボトルを新たなペットボトルに再生する“ボトル(B)toボトル(B)”リサイクル技術を活用し、組合員のみなさんからの使用済みペットボトル回収率を向上させ、再生していくことで、ごみとして廃棄されたり、海洋流出することがないように取り組んでまいります。

そのためには、組合員のみなさん、一人ひとりの協力が欠かせません。地球環境に負荷をかけないくらしを続けていくため、ご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

 

※以下の動画で高田秀重先生の解説を見ることができます。
海のプラスチックごみ:https://www.youtube.com/watch?v=HUcdYnjzbJo