ニューステーマ:イベントレポート

2017/04/21
イベントレポート

講演会レポート 「協同組合文化を耕そう~よりよい社会をつくるために~」

2016年11月、「協同組合」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。本講演会では講師に賀川豊彦記念松沢資料館理事長の加山久夫氏をお迎えし、協同組合のどのような点が評価されたのか、協同組合がもつ本質的な意義や価値とは、さらに今後協同組合が歩むべき方向性についてお話しいただきました。

講演会概要

◆講演日時:2017年4月4日(火)10:00~12:00
◆講演場所:横浜市スポーツ医科学センター2階大会議室(日産スタジアム内)
◆講師:加山久夫氏
1936年大阪府生まれ。賀川豊彦記念松沢資料館理事長、明治学院大学名誉教授。
共著に『賀川豊彦を知っていますか––人と信仰と思想』(教文社2009年刊)など。

講師の加山久夫氏
講師の加山久夫氏

「幸せ」に価値観を切り替えよう

 日本では2011年にブータン国王夫妻が来日したときに話題になった「国民総幸福量(GNH)」の考え方。前国王が提唱し、国民の約6割が農業に従事するというブータンで、90%以上の人が「幸せ」と感じているという同国のあり方に、東日本大震災、福島第一原発事故を経験した私たちは、大きな驚きとともに深い感銘を受けたのでした。加山氏のお話はまず、このGNHに改めて言及するところから始まりました。

 「戦後、日本人は国民総生産(GNP)を上げるためにまっしぐらに働き、一時はアメリカを追い越して1位になるのではないかと言われるほどの経済成長を遂げました。いまはちょっと足踏みしているとはいえ、経済大国であることに変わりはありません。
 しかしいま、経済が思わしくないことよりも問題になっているのが、国内の貧富の格差です。とくに“子どもの貧困格差”は先進41カ国中ワースト8位(ユニセフ2016年4月発表)。世界的にみても深刻な状況にあります。またブータンに影響を受けて国連でも統計を取るようになった“国民総幸福度ランキング”(2017年3月発表)では、日本は157か国中51位です。多くの日本人にとって『あなたは幸せですか?』と問われたとき、自分や周りを見回すとすぐには幸せと答えにくいのが実情ではないでしょうか。
 一部の層に富が偏在し、幸福への実感も薄いこのような閉塞状況のなかで、日本は果たして文化的な面で本当に人間らしいくらしができる国といえるのでしょうか。私たちは、GNPからGNHに価値観を切り替え、これからの社会を築いていく必要があるのではないでしょうか」(加山氏)

 これに対し加山氏が挙げたのが「協同組合」が果たす役割とその意義でした。「協同組合は、そもそもGNPではなく、健康で文化的なくらし、万人の幸せをめざす思想であり、事業体です」。加山氏はそう語ります。

時代や国を超える協同組合の価値

 さて、今回のユネスコの無形文化遺産登録では、協同組合がもつ普遍的意義に対して大変高い評価が与えられています。その登録理由とは、協同組合が「共通の利益と価値を通じてコミュニティづくりを行うことができる組織であり、雇用の創出や高齢者支援から都市の活性化や再生可能エネルギープロジェクトまで、さまざまな社会的な問題への総意工夫あふれる解決策を編み出している」ことです。

 日本でこの協同組合の礎を築いたのが、いうまでもなく賀川豊彦(1888年~1960年)です。賀川は日本の協同組合の父というだけではなく、『死線を越えて』などの小説で多くの人にわかりやすいかたちで運動の理念を伝えようとした作家として、ノーベル文学賞、平和賞候補者として、世界でも高く評価されています。

賀川豊彦について述べる加山氏

 加山氏は賀川について「大正から昭和にかけて最も強力な指導者であり、時代を超えた先見性をもった人物でした。私の役割は、その言葉や思想を21世紀に向けて翻訳することです」と話します。

 「賀川は貧困や飢餓にあえぐ人々を支援しともに闘いながら、“互いに互いを助け合う経済のしくみ(=協同組合)”の重要性を訴えました。さらに賀川が提唱した“協同組合文化”とは、人が人らしく文化的な幸せなくらしをすることに価値を置こうとする思想そのものでもあります。協同組合はその価値観を実現するしくみとして人々のあいだに根を下ろし、広がっていったのです」(加山氏)

 賀川の運動が母体となり、時代を経て、今日ではパルシステムなどの生協や、大学生協、地域金融である信用組合、農協、共済など、さまざまな分野に数多くの協同組合が存在しています。自分や家族のことを考えてみても、くらしのあらゆる場面が協同組合の多様な事業によって支えられていることに、改めて驚きを感じる方も多いのではないでしょうか。

 ところが今回の登録については、「私もずいぶん注意してみましたが、ほとんど報道されなかったのではないでしょうか」と加山氏。「ユネスコでは協同組合のしくみとその存在意義を大変高く評価していますが、ヨーロッパに比べると、日本での協同組合についての認知度は、残念ながら非常に低いのが現実です」(加山氏)。

 それでは、協同組合の意義を世の中の人たちにもっと認識してもらうには。何よりも、協同組合自身がその力を発揮し、今後より社会に貢献する存在となるためにはどうしたらよいのでしょうか。加山氏は、「内向きな組織として自足するのではなく、行政、企業と積極的に連携し、新たな公共体として道を切り開いていく姿勢が求められると思います」と語ります。

新たな公共性の獲得へ向けて

 賀川の時代から今日に至るまで、「協同組合が社会を担う」という想いは協同組合とともに生きる者にとって変わらない想いでもあります。しかしながら加山氏が語るように、「資本主義社会では、圧倒的な強みをもつ企業が中心的な存在であり、協同組合は常にアウェーでの闘い」を生きることになります。そのようなアウェーで、それでも協同組合がその存在意義を通して役割を果たしていくためには、「私たちの外側にいる“応援団”をつくることが大切です。そのためにまずは自分たち自身に向けて、不断の教育が必要です」と加山氏は語ります。

 「この場合の“教育”とは、たとえば“健全な肉体に健全な精神が宿る”といいますが、これを協同組合に当てはめて言うと、協同組合は理念や理想(=精神)を常に吟味(=教育)することが大切であり、その思想が崩れたら事業体(=肉体)もまた崩れてしまうということです。協同組合では思想と事業体が有機的な関係にあるために、その双方のあり方を常に問い続けなければ成長することもできなくなってしまうのです。
 これから先、協同組合を支えるみなさんには、周りにいる組合員ではない人を“非”組合員ではなく、“未”組合員という視点でとらえ、応援団として巻き込んでいただきたいと思います。多くの理解者や仲間がいてこそ、協同組合は行政、企業と同列に立つ第三の公共の役割を担う存在になることができるのだと思います」(加山氏)

 加山氏はまた、「お子さんに“生協と近所のスーパーは何が違うの?”と聞かれたらなんと答えますか? だれにでもわかるやさしい言葉で言い表すことは、簡単そうでいてとても難しいですね。だからこそぜひ、その答えを見つける努力をしてみてください」と宿題を出されました。そして、「次の時代を担う子どもたちに応援団になってもらうためにも」という加山氏の言葉が、これからの協同組合のあり方への示唆が込められたものとして感じられました。

  

【関連リンク】
ブータン~国民総幸福量(GNH)を尊重する国(外務省:わかる!国際情勢より)
協同組合がユネスコの「無形文化遺産」に登録されました(日本生協連合会ニュース)
賀川豊彦記念松沢資料館